間違いだらけの論理の常識
論理を語る上で、根拠のどこかで矛盾が存在していた場合、それ以降の言い分は全て正当性を失うし、ただ一つでも反例が存在するならば、その主張はどうあっても否定されなければならない。
これが分からない人が非常に多いと感じる。
悪い例として、こんな動画を見つけた。
ヘッドスライディングに関する部分である。
“さらにもう一つ、桑田さんが無駄だというのが、この一塁へのヘッドスライディング。そこで、ヘッドスライディングは本当に速いのかを実験。”
した結果、ヘッドスライディングの方が速いという結果が出た。
この時点で、ヘッドスライディングは無駄だという論理は破綻している。
にもかかわらず、そのままテーマを継続し、ケガをする危険性が高いため禁止、という実験となんの関係もない論理を展開している。
論理破綻にすり替え。最悪な例である。
さらにそのヘッドスライディングの危険性についても、ひどい展開になっている。
“僕はしない方がいいと思います。なぜなら、あの世界の盗塁王福本さん、今でいうとイチロー君、ヘッドスライディング見たことないでしょ。ないですよね。で、今三年連続パリーグの盗塁王を獲得してる西武の片岡選手にも、話を聞いてみましたので、どうぞ。”
それに対する片岡選手の反応
“ヘッドスライディングをして、ケガをした経験もあるので、それからはあまりしていないです。”
桑田は持論の根拠として、福本選手もイチロー選手もヘッドスライディングをしていないことを挙げている。さらに主張の補強として、西武の片岡選手の意見を加えている。
ところが、片岡選手はあくまで「あまりしていない」であって、「見たことない」前述の二人とは異なり、全面禁止しているわけではない。
それどころか、ケガをする以前は多用していた、ということさえ読み取れる。
同列に挙げられたはずの福本選手・イチロー選手の両名と、片岡選手とで矛盾している以上、これは意味のある根拠にはならない。
よって、これを根拠としている桑田の主張は否定されなければならない。
細かいと感じる人も多いだろうが、論理とは本来そういうものである。
なおも主張したいのであれば、矛盾しない範囲で論理を展開すればよい。
この例であれば、ケガの危険性が高いという事実は否定されておらず、片岡選手による追認もある。
なので、今回主張できるのは
「ヘッドスライディングはあまり推奨されない。なぜならケガの危険性が高いためである。その根拠として、盗塁王片岡選手の意見がある。」
ということまでである。
この例における過ちは、ヘッドスライディングは無駄だとか、盗塁王はみんなヘッドスライディングをしないとか、余計なことを主張してみずから論理破綻を招いていることであり、さらにその破綻を無視していることである。
野球の常識よりも、論理の常識を知る方がよっぽど大切ではないか。