絵画の価値に対する素朴な疑問
私を含め、芸術を分からない素人は似たような疑問を持っているだろう。
叩き売りされていた絵が高名な画家の作品だとわかると、いきなり億単位の値がついたりするのはおかしい、と。
その疑問を改めて整理してみたい。
例えば、ブランド物のバッグや時計、高級ワインというものは、材料や製造費に比べて、値段が著しく高い。ブランドの価値や希少性が価格に強く反映されているからだ。
とはいえ、そこらのスーパーに売っているような代物とは違い、洗練された素材を用いて丁寧に造られている。
もちろんデザイン性も高いのだろう。
そもそもブランドが価値を持つようになったのは、優れた作品を世に出し続けて認められた結果である。
ゆえに、価格がそれに見合うかは別として、作品そのものが非常に高品質であることは疑いなき事実なのである。
画家も同じだ。生まれた時点では当然無名であり、素晴らしい作品を描いて評価されていくことで、名声を得たはずである。
大金を積んででも手に入れたい作品だったからこそ、高値がついたはずである。
冒頭の繰り返しになるが、どこぞのマーケットに数千円や数万円で流通していた絵が、実は偉大な画家の作品であり、実は何億もの価値があった、なんていうニュースを時々聞く。
偉大な画家の作品であれば、名前で付加価値がつくのは理解できる。
だが、その画家が「偉大」になった理由は、周囲に評価される絵を描いてきたからだったはずだ。
絵が知られていなかったということは、無論例外もあろうが、多くの場合その絵が評価されなかったということだ。
すなわち、その絵は彼を偉大な画家たらしめるのに、まったく貢献していない。
にもかかわらず、画家の名声を理由に、絵の価値は飛躍的に高まる。
絵の価値が画家の名声を高めてきたはずが、名声が絵の価値を高めていることになる。
これでは本末転倒ではないか。